アレーアンテナを用いた無線電力伝送法に関する研究

  ・研究背景

 近年,モバイル機器の急増により,ケーブルを使わずに充電可能な無線電力伝送技術への関心が高まってきている.また,非接触ICカードが普及している一方で,小型のメモリーカードは安定した電力の供給が必要であるため非接触化が困難である.小型メモリーカードの非接触化は無線電力伝送技術により実現可能であるが,信号と電力の同時伝送が必要である.
 無線電力伝送システムにおいて信号の同時送受信を行う場合,送受信アンテナ間の相互結合により強い送信信号が受信アンテナに回り込む.減結合回路は回り込みの抑制に有効であるが,アンテナ周囲の散乱体の移動によって減結合特性が劣化するという問題がある.

    



  ・提案法

 本研究では,アレーアンテナにおける分布定数線路と集中定数素子を用いた可変減結合回路の構成法を提案する.簡易に可変機構を実現するために,位相回転用のマイクロストリップ線路の線路長lfおよび線路間に挿入するブリッジ抵抗値の大きさRのどちらか一方を可変とする.送受信アンテナと端末用アンテナ間の距離を変化させた実験による送受信アンテナの実測値を用いて,提案する可変減結合回路の距離特性を計算し,提案回路構成法の減結合特性を評価する.

   



  ・実験結果

 実測値を用いた距離特性の計算結果により,提案可変減結合回路を用いることで,アンテナ間の距離変動がある場合でも,アンテナの整合に大きな影響がなく,アンテナ間の相互結合が改善された.次,回路パラメータが固定の場合に比べ,位相回転用のマイクロストリップ線路の線路長lfを可変とした場合,相互結合の改善効果はほとんど見当たらなかったが,ブリッジ抵抗値の大きさRを可変とした場合,相互結合は各距離で平均的に約32.1dBの改善効果が得られた.また,抵抗値が可変の場合,周波数がずれることなく相互結合が改善されることが分かった.以上の結果から,ブリッジ抵抗値Rを可変とする場合,相互結合の改善効果が大きいことを明らかにし,本提案構成法を用いることによって高い減結合効果が得られることを示した.